2. 両親
父は1947年に大阪で生まれた。3人兄弟の末っ子で、7歳上の兄と3歳上の姉がいた。小さなころから物を作るのが好きな少年だったそうだ。古い家族アルバムで見た小学生の父は、半ズボンの制服姿で畳に座り、本を手にして恥ずかしそうに笑っている。母は1949年に京都の大江山で生まれた。5人兄弟の末っ子で、兄3人と姉1人。自然に囲まれた環境で育ったせいか、母は大らかでいつもニコニコと笑っていた。
僕が小学生の頃、二人の馴れ初めを聞いたことがある。「ママが駅の売店で店員さんをしてた時にね、パパがお仕事で新聞を持ってきたの。最初はなんとも思ってなかったけど、パパが用もないのにお店の前をウロウロしててね、パパの方からママのこと好きになったんやで」と母は教えてくれた。この時の嬉しそうな母の顔と、僕の中に生まれた暖かな気持ちは、何度も思い返す僕の宝物だ。母には父が自分を迎えに来た王子様のように見えたんだと思う。
両親は1973年に結婚した。この時、父27歳・母23歳。母のお腹の中には兄がいたそうだ。結婚してしばらくは千里山のマンションに住んだあと、吹田に新しくできた団地に引っ越した。近くには大きな公園があり、兄と走りまわって遊んだことを覚えている。僕が小学校に入学する年、父方の祖父母が大阪市内に建てた3階建ての立派な家で同居することになり、祖父母宅に家族4人で引っ越した。
父は結婚を機に絵で食べることを諦め、祖父の経営する運送会社で昼夜を問わずに働いた。深夜は運転手として現場にでて働き、昼間は営業をして、夕方に帰宅する。僕が幼い頃の父はいつも疲れていて近寄りがたい雰囲気だった。絵を描いて母と一緒にいる時の父が好きだった。母は立派な家で住むようになって、忙しそうにしていた。卓球・お料理・生け花。たくさんのお友達に囲まれたお姫様のような母はいつも元気に飛び回っていた。父は妻の笑顔に生きる喜びを貰っていたんだと思う。
両親はよく思春期の僕の前でのろけて見せた。リビングでコーヒーを飲みながら、「お前のお母さんは世界一のべっぴんや」と父が言い。母は「色気のかたまりやで~」と笑って付け加える。僕は仲の良い両親の姿に安心をもらい、いつか2人のようになるんだと思っていた。